AIでサイバー攻撃は金融の危機を招く?日銀・IMF・FSBの分析と個人の備え

AIでサイバー攻撃は金融の危機を招く?日銀・IMF・FSBの分析と個人の備え

2026年10月23日、日本銀行は「金融システムレポート」の最新号で、「フロンティアAI」(最先端の高性能なAI)の発展によってサイバー攻撃の脅威が高まっていると指摘しました。では、AIを使ったサイバー攻撃が金融機関に向かったら、私たちのお金にはどんなことが起こりうるのでしょうか。

当記事では、IMFや日銀などの公的機関の分析だけをもとに、言われていることと言われていないことを分けて整理します。

目次

AIでサイバー攻撃はどう変わった?公的機関と開発会社の報告

英国NCSC:攻撃の「頻度と強さ」が増す

英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は、2025年5月に公表した評価で、AIが攻撃者の作業を効率化すると分析しています。

AIは、サイバー侵入の作業の一部をこれからもほぼ確実により効果的・効率的にし、サイバー脅威の頻度と強さを高める。(編集部訳)

出典:英国NCSC「AIがサイバー脅威に与える影響(現在〜2027年)」2025年5月

NCSCによると、攻撃者はすでにAIを、標的の下調べや脆弱性(ソフトウェアの弱点)探し、だましのメッセージづくりに使っているとみられます。新しい手口より、今ある手口が速く・大量になるという見方です。

日本銀行:弱点の発見から攻撃までが短くなる

日本銀行は、2026年10月号のレポートで次のように説明しています。

フロンティア AI は脆弱性の発見や高度な攻撃コードの生成に優れており、従来は発見が困難であった脆弱性が短期間に大量に発見され得ることに加え、脆弱性の発見から攻撃に至るまでの期間が大幅に短縮され得ることが指摘されている。

出典:日本銀行「金融システムレポート(2026年10月号)」2026年10月

さらに日銀は、スキルの低い攻撃者がフロンティアAIを悪用することで、高度な攻撃が増えるおそれがあるとしています。守る側が弱点を直すまでの猶予が短くなる、ということです。

AI開発会社の報告:AIが攻撃の大部分をこなした例も

AI開発会社のAnthropicは2025年11月、自社の「Claude Code」が悪用された攻撃を止めたと公表しました。同社によると、中国の国家が支援するとみられるグループが金融機関などの約30組織への侵入を試み、少数で成功しました。同社は、攻撃作業の8〜9割をAIがこなし、人間の判断は要所だけだったと説明しています。

>>AIが主導したサイバー諜報活動の阻止(Anthropic 公式・英語)

▶ 関連記事:AIでサイバー攻撃を自動化!Microsoftが中国政府系とみられるグループの手口を公表、個人の対策は

金融機関がAIのサイバー攻撃に狙われたら?公的機関が描く連鎖

「攻撃で銀行が止まり、不安が広がって取り付け騒ぎになるのでは」という心配に対し、公的機関がどこまでを「起こりうる」としているのかを段階ごとに見ていきます。

1. 決済などの重要なサービスが止まる

IMF(国際通貨基金)は2024年4月、「国際金融安定性報告書」のサイバーリスクの分析を紹介するブログで、次のように説明しています。

決済ネットワークなどの重要なサービスに混乱を生じさせるサイバーインシデントは、経済活動にも深刻な影響を与えうる。

出典:IMFブログ「サイバー脅威の高まりが金融の安定にとって深刻な懸念に」2024年4月

IMFは実例として、2023年12月にレソト(アフリカの国)の中央銀行が攻撃を受け、国内の銀行が取引できなくなったことを挙げています。攻撃の5分の1近くは金融機関が対象だったとしています。

2. ほかの金融機関に広がる

日本銀行は、被害が1社で終わらない点を重く見ています。

サイバーインシデントは、個々の金融機関やその利用者にとってのリスクであると同時に、影響が他の金融機関に広がり得ることから、マクロプルーデンスの観点からも重要なリスクである。

出典:日本銀行「金融システムレポート(2026年10月号)」2026年10月

マクロプルーデンスとは、1つ1つの銀行ではなく、金融の仕組み全体が安定しているかを見る考え方です。

各国の金融当局でつくる金融安定理事会(FSB)の議長も、2026年8月にG20(主要20か国・地域)の財務大臣・中央銀行総裁にあてた手紙で、金融システムにとって最も差し迫った懸念は、フロンティアAIがサイバーリスクに与える影響だと述べました。

フロンティアAIは、サイバーリスクの速度・規模・経済性を大きく変える可能性があり、とりわけ外部のサービス提供者が一部に強く集中していることから、システム全体で市場の信頼を損なうおそれがある。(編集部訳)

出典:金融安定理事会(FSB)議長のG20あて書簡 2026年8月

多くの金融機関が同じクラウドやシステム会社を使うため、そこが止まると複数の金融機関が同時に影響を受けうる、という指摘です。

3. 信頼が揺らぎ、取り付けにつながるおそれ

「取り付け」とは、銀行が危ないと感じた預金者が、いっせいにお金を引き出そうと押し寄せることです。IMFはこの段階にも触れています。

ある金融機関における重大なインシデントは、信頼を損ない、極端な場合には市場での売り注文の殺到や銀行の取り付けにつながる恐れがある。

出典:IMFブログ「サイバー脅威の高まりが金融の安定にとって深刻な懸念に」2024年4月

一方でIMFは、米国の小さな銀行では攻撃後に小規模な預金の流出が続いたものの、深刻な取り付けはこれまで起きていないとも分析しています。

4. 公的機関が「言っていないこと」

連鎖の話は、通貨の暴落やハイパーインフレ(物価が急激に上がり続けること)にまで広げて語られることもあります。今回確認したIMF・日銀・FSBの資料では、そこまで連鎖するという分析は示されていません。

よく心配される段階公的機関の資料での扱い
システムが止まるIMF:経済に深刻な影響がありうる
ほかの金融機関に広がる日銀・FSB:広がりうる
信頼が揺らぐIMF・FSB:おそれがある
取り付け騒ぎIMF:極端な場合のリスク。米国の小さな銀行では深刻な例はなかった(2024年の分析)
通貨安・ハイパーインフレ言及なし

日本の金融ではすでに何が起きている?AI時代の当局の動き

証券口座の乗っ取りは1年9か月で不正取引1万件超

金融庁によると、証券会社のインターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引は、2025年1月〜2026年9月の合計で次のとおりです(金融庁が各社から報告を受けた暫定値)。

  • 不正アクセス件数:19,252件
  • 不正取引件数:10,642件
  • 売却金額:約4,372億円/買付金額:約3,837億円

月別では2025年4月が最も多く、不正取引は3,033件でした。その後は減り、2026年9月は2件となっています。なお金融庁は、売却・買付の金額は顧客の損失額と一致しないと注記しています。

>>インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引にご注意ください(金融庁)

日銀のレポートでも、ネットバンキングの不正送金は多要素認証などで大きく減った一方、海外から弱点を探る不審なアクセスは増えているとされています。

金融庁と日銀が「フロンティアAI」への短期的な対応を要請

2026年5月22日、金融庁は日本銀行と連名で、金融機関に「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」を要請しました。

日銀のレポートによると、要請ではフロンティアAIへの対応を経営課題として扱うこと、優先して守るシステムを決めること、修正プログラム(パッチ)を当てる人員を増やすこと、システムが止まったときに備えることなどを求めています。ネットバンキングなどの重要なシステムを中心に点検が進んでいるとされています。

>>「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請について(金融庁)

金融庁は2026年10月9日にも、本人確認書類の画像を含む顧客情報の漏えいが起きているとして、金融機関に対策の点検を求めています。

>>現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について(金融庁)

※2026年10月27日時点・金融庁の公表資料(2026年10月9日更新)、日本銀行「金融システムレポート(2026年10月号)」より

AIのサイバー攻撃から自分のお金を守るには?今日からできる備え

金融システム全体の守りは金融機関と当局の仕事ですが、自分の口座の乗っ取りを防ぐのは自分の行動です。

金融庁がすすめる5つの備え

金融庁は、証券会社などのネット取引サービスを使うすべての人に、次の点を呼びかけています。

  1. メールやSMSのリンクは開かず、ブックマークに登録した正しいURLからログインする
  2. ログイン時・取引時・出金時の多要素認証(パスワード以外の確認を組み合わせる仕組み)や通知サービスを有効にする。パスキーなどの強い認証が使えるようになったら、すぐに設定する
  3. パスワードを使う場合は使い回さず、長く推測されにくいものにする
  4. こまめに口座を確かめ、不審な点があれば金融機関に連絡してパスワードを変える
  5. パソコンやスマホのOSを最新にし、ウイルス対策ソフトを入れて更新する

AIでだましのメールはますます自然な日本語になると考えられます。「文面がおかしいかどうか」ではなく「リンクから入らない」をルールにするのが確実です。

不安をあおる情報に振り回されない

IMFの分析では、危機へつながる道すじのかなめは信頼が損なわれることでした。障害のニュースを見たら、SNSのうわさで慌てて動く前に、金融機関や金融庁の公式発表を確かめましょう。

身に覚えのない取引があれば、利用している金融機関の窓口のほか、金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811、平日10時〜17時)にも相談できます。

【まとめ】AI時代のサイバー攻撃と金融は「信頼」が要、まず口座の守りから

IMF・日銀・FSBは、AIで攻撃が速く大きくなり、被害が金融機関の間に広がって信頼が揺らぐおそれがあると分析しています。一方、IMFの2024年の分析では、米国の小さな銀行で深刻な取り付けは起きておらず、通貨安やハイパーインフレまでの連鎖も示されていません。過度に怖がらず、多要素認証とブックマークからのログインを今日のうちに見直しておきましょう。

なお、当記事は特定の金融商品や投資を勧めるものではありません。

記事の情報について

AIの技術・サービス・ルールは変化が速く、本記事の予測や見通しは将来を保証するものではありません。各サービスの仕様・料金は公式サイトで最新の情報をご確認ください。本記事の情報は2026年10月27日時点のものです。

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この記事を書いた人

AIの最新ニュースを、AI初心者にもわかりやすく届けるメディア「AIオタク」の編集部です。ChatGPT・Claude・Gemini・Grokなど、各社の新しいモデルや機能の発表を毎日チェックしています。記事は、各社の公式ブログ・ヘルプページ・リリースノートなどの一次情報で事実を確かめてから書いています。運営者自身も、ひとり法人の仕事で記事作成やマーケティングにAIを毎日使っている、AIの「オタク」です。「結局、自分には何が変わるの?」がわかる記事を目指しています。

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